『超ひも理論をパパに習ってみた』

本書は天才物理学者の(関西弁の)パパが、女子高生の娘に最先端の物理学を伝授するというもの。まさにかつてなく、わかりやすい素粒子物理学講義と言える。

 

といっても身構える必要はない。そんな堅苦しく話そうものなら”やっぱりパパは異次元に住んでるのよ。バイバイ”と、平気で言う娘相手なのだから。そんなこともあり、できるだけわかりやすく、楽しく話をしてくれる。1日たった10分たらずの講義が、第7講義分まであり、70分でひも理論が理解できるというが本書である。これは決して誇張ではなく3時間もあれば読むことができるだろう。

 

シャーペンで文字を書くときどんな力を使っているのか。答えは摩擦力ではなくて電磁気力という力だそうだ。ちなみに色々な原子をまとめて水やタンパク質などの分子を作る力や、その分子同士がどう結合し動くかもこの電磁気力である。物理学者にとっての力とはたった4つしかない。その4つとは重力、電磁気力、弱い力、強い力である。そしてさらにこの4つを統一する理論こそがひも理論なのである。

 

この世界のあらゆる物質は細かく細かく刻んでいくと、最終的には素粒子という物質になる。この素粒子が実はひものような形をしていると仮定する。すると先ほどの電磁気力と重力の2つの力が自然と導きだせるという。どういうことかというと、科学は、なぜ重力というものがあるのか、ということまで答えようとしているのだ。これは何も小難しい数式を用いなくても直感でわかる。本書を読めば、神様になったような気分になるだろう。ここまでくると娘の美咲もすっかりひも理論に夢中だ。

”私、とんでもないことを知ってしまった気分。究極理論を少しかじっちゃった。この世の中がどうなっているかって、すごく複雑だけど、素粒子の言葉で考えると、意外に簡単なのかも。重力と光が、単にひもかもしれない、って考えただけで、神様になった気分だ。”

 なんて言葉が飛び出す。

 

 "わからないことが面白い。そんなふうに思ったこと、なかった。…わからないことはツラいことだと思ってた。"

こう思っている人も多いのではないだろうか。いや、ほとんどの人がこう思っているに違いない。なぜ勉強はこんなにも辛いものになってしまったのだろう。それは多分、世の中の「当り前」を何の疑いも持たずに「当り前」として受け止めているからである。そこでノーベル化学賞を受賞したキャリー・マリスの次の言葉を引用する。

"そもそも私の、世界へのアプローチは、この世界になにかグランドデザインがあってそれを証明しようとする、というものではないんだ。仮説を証明するデータがほしいんじゃない。むしろ世界がどうなっているか知りたいだけなんだ。それは子供のころガレージで実験していたころからまったく変わっていない"

自らを形容するのに最も適した言葉は何?と聞かれたとき、マリスは、私はオネスト(正直)だと言った。私はオネスト・サイエンティストだと。マリスは子供の頃から、本当の意味で、自由でありえたのだ。「当り前」を疑うには、確かに勇気が必要である。しかし、それが科学のワクワク感の源水なのだ。本書はそんなことを思い出させてくれた。

 

本書はひも理論の入門書であるが、物理学者という輩がどんな人たちなのかも教えてくれる。またやさしい関西弁での解説は、抜けがよく、スッキリと理解ができ、気持ちの良いものだ。自分のパパを宇宙人でも見るかのように接する、娘・美咲とのやり取りも面白い。文理問わず、幅広い人が読めるのが本書である。

 

 

超ひも理論をパパに習ってみた 天才物理学者・浪速阪教授の70分講義 (KS科学一般書)

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