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『ゲノム編集とは何か』

グーグルによる機械学習ディープラーニングによりAI人工知能)は、人類の知能を超える日が近いとも言われている。また、量子力学分野でも、「量子アニーリング」マシンと呼ばれる量子コンピュータが登場した。この「量子アニーリング」マシンは機械学習ディープラーニングに応用ができると期待されている。

そんな中、生命科学分野においても、「ゲノム編集」と呼ばれる超先端技術が登場した。本書では、この第3のゲノム技術とも呼ばれる技術がどのようなものなのか、また、その登場が人類に与える影響として、いかに衝撃的であったかが語られる。

 

では、この新しい遺伝子工学(以下、遺伝子組み換え)技術は、従来のそれとは一体何が違うのだろうか。本書によれば、これまでは、遺伝子を組み換えるために、科学者が1万回、あるいは100万回もの実験を繰り返したあげく、やっと1回だけ狙った通りに組み換えることができるという、極めて運試しなものであったという。また、例えば、テレビでよく聞く「ノックアウト・マウス」を作るために使われた組み換え技術は、マウスにしか使えず、マウスより少し大きいラットでは上手くいかなかったりと、汎用性に乏しい技術でもあった。

それでは、神の技術とも評される「ゲノム編集」はどうなのだろうか。

 

「ゲノム編集」は、CRISPR/Cas9(クリスパー・キャスナイン)システム、または単にクリスパーと呼ばれている。これまでの遺伝子組み換え技術との最も大きな違いは、その精度の高さだろう。クリスパーでは、科学者が狙った遺伝子をピンポイントで切断したり、改変し操作することができる。

さらにクリスパーは、「ゲノム」や「塩基配列」など分子生物学の基本知識さえあえば、誰でも扱える技術とされている。本書を読めば十分に扱えるかというと、さすがにそうとはいかないが、クリスパー発明者の一人、米カリフォルニア大学のジェニファー・ダウドナ教授は、専門家のトレーニング次第では、高校生でも扱える技術と語る。

 

クリスパーの登場により、従来の技術とは比較にならないほど、高効率で容易に、生物の遺伝子操作をおこなうことが可能となった。本書によれば、筋肉が増量したマダイやウシなどの農産物、医学研究のためにヒトの疾患を再現したサルが、すでに誕生しているという。そして2016年には、世界で初めて、クリスパーを用いたがん遺伝子治療臨床試験が、中国でおこなわれた。それは人類がすでに、「ヒト」のゲノムをも操作する時代に入っていることを意味している。

 

本書はまた、クリスパーという最先端技術を解説する一方、遺伝子を組み換える、操作するといった技術を理解する上で、知っておくべき基本的な知識についても、50ページほどで解説している。たとえば、「分子生物学のセントラル・ドグマ」は、常識として抑えておくぐらいでいいだろう。これは、DNAからmRNAへと遺伝子が転写され、それによってリボソームでタンパク質が生成される一連のプロセスのことを指している。これらDNARNA、タンパク質の違いをよく理解することで、クリスパーの最大の長所である、DNAの狙った位置を正確に認識することがなぜ可能になるのかがわかる。本書は、続々と新技術が登場する生命科学分野の入門書としてもお勧めしたい。

 

クリスパーの登場で、人類は自らの寿命をコントロールできる時代が来るのだろうか。本書によれば、答えはイエスだ。現時点での技術的な課題も、AI人工知能)など他の技術と組み合わせることでいずれ克服できるとされている。だが、そもそも私たち人類は、そのような時代を望んでいるのだろうか。技術は進歩するが、倫理面でのガイドラインというものが存在しないというのが現状だ。皆さんも本書を読んで、ぜひ一緒に考えてみてほしい。

 

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